Journal · 2026.06.18

風に乗ってその人は走る

〜 メランコリックで退廃的な一ページ 〜

以前同じ職場で働いていた先輩と一緒に飲んだ時にお祝いで貰ったワインがあった。「おめでとう」と「ついにやったね」と添えてもらって。

その人は料理人でソムリエの資格も持っているから、よく休憩中にコーヒーを飲みながらワインについて話した。

私も先輩もその職場から転職しても頻繁に連絡を取っていた。時には飲みにも行っていた。いつも二人でべろべろになっているので大抵最後は何を話したか覚えていない。笑 それでもよく飲んで色々と語り合った。

そんな中で私は少し前に、ちょっと結果を残せることがあった。そんな報告も先輩にしたら「よし!お祝いだ!飲みに行こう!」と誘ってくれた。

大体私たちが一緒に飲むときは最低2件、多くて5件くらいハシゴ酒をする。笑 最初は赤提灯の店から始まって、立ち飲み、焼き豚、焼き鳥、寿司、時には路上なんてこともあった。笑 あ、路上と言っても座ったりしないで(いや、あったな)酔い覚ましにチューハイ片手にテクテク歩くだけだ。

そんな感じで誘ってくれたあの日に私はこのワインをもらった。

Azucca e Azucco Cappuccetto Rosso 2023(赤ずきんの本音)のボトル
なんともかわいらしいエチケット

なんともかわいいエチケット。かわいらしいエチケットのワインは日本ワインだった。それも、愛知県豊田市の。

Azucca e Azucco Cappuccetto Rosso 2023
「アズッカ・エ・アズッコ|赤ずきんの本音 ブリュット・ロッソ 2023」

この画像を見てもらえればわかると思うが、ラベルには絵本のような赤ずきんとオオカミが描かれているなんともかわいらしいエチケットだ。キャップシール代わりについている布?風呂敷?みたいなものも日本らしくて良い。

このワインの裏ラベルには妙に詩的なコピーがある。

ナニこの美味しそうな匂い!…ランプレドット?おばあちゃん、いっつもパンだけだから買ったげよ
〜なあそれオオカミ系の食いもんじゃね

…ナニコレ、めっちゃキャッチーやん。ワインのリリースコピーで、こんな書き方をする造り手はそういない。

いや、一人知ってるけど、その人とはまたちょっと違うこのポエティックな感じ。嫌いじゃない。むしろ好き。

この「赤ずきんの本音」に使われている品種は、ランブルスコ・グラスパロッサ。

本来はイタリア・エミリア・ロマーニャ州の品種で、多分皆さんもよく知る「ランブルスコ」という微発泡のスパークリングワインに使われる品種。私もサイゼリヤでよく一人で一本飲んでたなぁ…。笑

さて、そんな小話は置いておいて、日本でこの品種を栽培している造り手は、ほぼいないと思う。私はそれなりに日本ワインも触れてきたつもりだが、多分10社もないのでは?

それほど珍しい品種を育てるというのだから、相当こだわりがあるに違いない。

ちなみにネットで調べれば(当然私も調べた)こちらのご夫婦の経歴もわかるのだが、私自身が聞いたわけではないので、割愛します。

そんな先輩と私は今はお互いに別々の現場で戦って、たまに会って近況報告をして、ベロベロになるまで飲む。

そういう関係性が3年近く続いている。思っているほど長く一緒にいたわけではないのだが、妙に気が合うというか、とても波長の合う先輩だと私は思っている。この業界の未来についてもよく話したし、料理人とはなんぞや、サービスマン、ソムリエとはなんぞや、と議論を交わしたものだ。

同じ職場で働いた人と、別々の場所で頑張る関係性は、家族でも、恋人でも、親友でもない、独特の距離感を持っている。向こうの方が年齢も上なので飲みに行く時は思いっきり甘えさせてもらっているが。笑

お互いの戦況を察し合える距離。言葉にしなくても伝わるものがある距離。

その距離が、こういうワインの選定に出る。普通の祝いなら、きっとシャンパーニュを贈るだろう。

「お祝い事にはシャンパーニュ」だ。もちろんそれはそれで嬉しいのだが、その人はあえてそれをしなかった。

「アズッカ・エ・アズッコの赤ずきんの本音」を選んだ。

ニッチで、絵本のようで、ちょっと変わっていて、でも造り手は本物。こういうワインを選んで贈る、ということ自体が、何かを伝えている気がする。

「このワイン知ってる?」なんて得意げに聞いてきたが、「もちろん、知ってまっせ」と返すと悔しがるのがまた面白い。笑

では、このワインのテイスティングを。

グラスに注ぐと、深いルビー。ランブルスコらしい、紫がかった赤の色調。奥が見えないくらい深い色合い。泡は細かく、でも控えめで、シャンパーニュとは全く違う質感。しかしこの泡の柔らかさはシャンパーニュに近いものも感じる。

香りは、ブラックチェリー、ブルーベリー、そしてスミレ。ほんのり土を思わせるニュアンスもあるし、青い茎のような若さも感じる。

口に含むと、辛口寄りのブリュット。ランブルスコと聞くと甘口を思い浮かべる人も多いだろうが、ドライな味わいもあるんだぞと言いたい。そして酸とタンニンが同時に立ち上がり、ぎゅっとした収斂性も見られる。

微発泡の泡が口の中で果実味を運んでくる。余韻に感じる苦味もまた心地よく、どこかメランコリック。

塩気のある生ハムやパテ、ハムなどのシャルキュトリーや、トマト系の料理に合うはず。

私は今回はチーズ、そしてとある映画を見ながら飲んでいた。

その映画のラストシーンもどこかメランコリックで退廃的。スパークリングワインと聞くと始まりや門出など、スタートをイメージするかもしれないが、時に私はエンディングにも合うと思っている。

どこか憂鬱で悲しげな印象が「この物語はどこへ進んでいくのだろうか?」という気持ちにしてくれる。

さすがは先輩だ。考えさせるワインを渡してくれる。このワインの感想は先輩に伝えたが、並のソムリエでは多分対応できないだろう。

それが、先輩の私へのメッセージかもしれないと私はほくそ笑んだ。

ベロベロになるまで飲む関係性の中で、普段は絶対に交わさない、本音の話。

それを、ワインに乗せて贈ってくる。

これがソムリエと料理人の、現場で培われた言葉なのかもしれない。

今度会ったらまた何も言わずに、ベロベロになるまで飲むと思う。むしろシラフのまま飲むことなんて多分ない。笑

酔っているからこそ話せる本音もあるのだ。まあ私たちは酔ってなくても話すけどね。

最後まで読んでくださってありがとうございます。
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