マリアージュとは同郷での出会い
〜 海風の当たるテラス 〜
ジェノヴェーゼを作りたかった。バジルを買ったが量が少なかったので大葉を買い、松の実はなかったので断念。パルミジャーノをすりおろして、ガーリックを潰して、オリーブオイルでひとつにする。
リグーリアの郷土料理を、東京の自宅の台所で再現する。
合わせるワインは、同じ土地のものがいい。ソムリエ教本でも載っていることだし、多分みんな知っているであろう。
元々「次の日の休みはジェノヴェーゼを作る」と決めていたので白ワインがいいな〜と近所の酒屋で色々見ていたら、偶然リグーリアのワインを見つけた。もちろんこの料理の生まれがイタリアのリグーリア州なのは知っていたが、意外とリグーリアのワインてのは小売では見かけることが少ない。この土地の品種「ヴェルメンティーノ」が入っているワインならなんでもいいか。と半ば諦めていたので、これは幸先の良い休日だ。
そして手に取ったのは、La Polenzaが造るMolinelloの2023だった。
この造り手は世界遺産になっているチンクエ・テッレの家族経営のワイナリー。チンクエ・テッレとは海に突き出した断崖の上に色とりどりの家々が積み重なる、あの絵葉書のような場所だ。
彼らの畑のほとんどは海を見下ろす段々畑(terrazzamenti)にあって、ヴェルメンティーノ、ボスコ、アルバローラなどが植えられている。
Molinelloは、その土地の白ワインだ。肩肘張らない、けれど確かに土地の声をする一本だ。
グラスに注ぐと、若々しい色合いのレモンイエローが透き通って光を含み、ヴィンテージが若い割にはしっかりとした粘性がある。
香りはニュートラルで、落ち着いている印象。ライム、レモン。スイカズラと白い花。そしてわずかにホワイトペッパー。少し温度を上げると奥のほうから、吟醸香に近い華やかさが立ち上ってくる。日本酒を嗜む人なら、すぐに分かるあの匂いだ。そしてメロンを思わせる甘やかさが、ワインの輪郭をやわらげている。
口に含むと、アタックは真っ直ぐ刺さり、酸は溌剌として、まったく曲がらない。速球派ピッチャーの糸を引くようなストレートを思わせる真っ直ぐさだ。そのまま中盤にかけて、ボディに丸みが現れる。溌剌とした酸からイメージするよりも、ずっと膨よかだ。味わいも思っているよりもしっかりとしている。
アルコール度数は標準的(確か12.5%)なのに、口の中では数字以上の強さを持っている。余韻は6秒ほど。最後に苦味が残るのが、またこれからの季節にぴったりだ。
そして、ほんの少しの塩味も感じる。
塩味、と書いて、ふと手が止まった。
塩味は海だ。
コルニリアの段々畑は、海風の届く場所にある。そこで育ったぶどうが、果実の中にその痕跡を残している。
このワインは「海風の当たるテラス」。
そう書いた瞬間、テイスティングと土地が重なった。
直線的な酸は風の通り道で、丸みのあるボディはテラスの白い石畳の温もりで、最後に残る塩味は、その風が海から運んできたもの。
このワインの感覚像が、生まれた場所とそのまま一致していた。流石にこのチンクエ・テッレの急勾配にテラスはないだろうけどね。笑
ちなみに僕は写真を撮るのが下手です。笑 その後作ったジェノヴェーゼのパスタと合わせると、当然のように寄り添う。同じ土地で生まれたものは、共鳴し合うように繋がっていく。地産地消は流行語ではなく、ワインが語りかける心の有り様かもしれない。
ワインに言葉を与えることは、その土地のブドウや食材と言葉を交わすことである……真剣に語ると引かれてしまうのはご愛嬌ということで。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
書くほど、ワインが言葉になる。